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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)105号 判決 1992年1月30日

青森県弘前市鷹匠町21

原告

工藤武重

訴訟代理人弁護士

長畑裕三

八代宏

東京都港区南麻布1丁目8番22号

被告

株式会社武内工業所

代表者代表取締役

武内金弥

訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

石川義雄

小出俊實

松見厚子

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第20366号事件について平成3年3月14日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を自動車用社名燈(以下、単に「社名灯」という。)とする意匠登録番号第744251号の意匠権者である(以下「本件意匠」という。)ところ、被告は平成元年12月6日、本件意匠について登録無効の審判を請求した。特許庁はこの請求を同年審判第20366号事件として審理した結果、平成3年3月14日、本件意匠登録を無効とする、との審決をした。

2  審決の理由の要旨

(1)  本件意匠は、昭和60年7月8日に出願され、同63年6月24日に登録されたものであり、その構成態様は別紙意匠目録(1)に示すとおりであり、その要旨は、社名灯本体が、左右に長く前後に扁平でやや高さのある箱状体において、その左右端から平面(頂面)にかけた外側面(周胴部)が、平面中央を頂点とする緩急斜状面を組み合わせた底の浅い逆転船形状を呈するものとし、底面は水平状とし該部に取付用台板を設けている。取付用台板は底面中央付近で前後にやや広幅の隅丸横長方形状の薄いものとして密接固着している。

なお、社名灯本体の前後面(正背面)には、3分割の枠取線を現し、中央の枠取線の内側に略「m」字状の太い線を現したものである。

(2)  引用意匠1及び2は、いずれも請求人(被告)製造に係る後記引用意匠3の実施品であり、前者は別紙意匠目録(2)の構成態様からなるもので昭和58年9月28日大東京タクシー株式会社に、後者は同目録(3)の構成態様からなるもので同59年12月24日三和交通株式会社に、いずれも請求人(被告)から納品され、前者は昭和58年10月1日から、後者は同60年1月6日からタクシーに装備され、営業上公然と使用されているものであるから、本件意匠の出願前国内において公然と知られた意匠である。

そして、両意匠の要旨は、後記引用意匠3の前後面(正背面)において、3分割線を現したものである。

引用意匠3(意匠登録第516655号意匠の類似第1号の意匠公報の示す意匠、審決甲第3号証意匠)は、同意匠出願人(被告)が昭和58年6月24日に公然と販売し、新規性を喪失したものを同年8月2日に新規性喪失の例外規定の適用を申請して出願したが、昭和61年10月8日に拒絶理由通知を受けたため、上記出願を意匠登録第516655号意匠を本意匠とする類似意匠登録出願に変更したものである。

引用意匠3の構成態様は別紙意匠目録(4)記載のとおりであり、その要旨は、自動車用表示燈本体が左右に長く、前後に偏平でやや高さのある箱状体において、その左右端から平面(頂面)にかけた外側面(周胴部)が、平面中央を頂点とする緩急斜状面を組み合わせた底の浅い逆転船形状を呈するものとし、底面は水平状として該部に取付用台板を設けている。取付用台板は底面中央付近で前後にやや広幅の隅丸横長方形状の薄いものとして密着固着し、各隅に吸着具を設けている。

(3)  本件意匠と引用意匠3を比較すると、両意匠は、前後面の3分割枠取線、中央の枠取線の内側の略「m」の字状の太い線及び取付用台板の四隅の吸着具においてそれぞれ差異があること以外においては、略一致するほど酷似する。以上の酷似点と差異点を意匠の類否の観点から検討すると、以下のようになる。

<1> 本件意匠は社名灯の、引用意匠は自動車用表示燈の各構成態様に係るものであるが、この種意匠の属する分野ではこの種の意匠は社名を表示できる形式の自動車用の「屋上灯」、「防犯灯」と観念されるものでその目的は「防犯兼用社名灯」と解されるから両意匠に係る物品は一致する(カタログ「KT式社名表示灯」の記述参照、審決甲第4号証・本訴乙第1号証)。

この種意匠は、その正面、背面にこれを搭載使用する車の所属するタクシー会社等の会社名、社標、サービスマーク及びこれに関連する記号、数字等を種々の態様で現すもので、一般にこの種物品の購入者であるタクシー会社等は、社名灯等の制作を販売会社に発注する場合、発注先の保存資料等により具体的な型式の表示燈を特定し、これに必要な表示すべき会社名、サービスマーク及びこれに関連する記号、数字等を適宜指定するのが普通であり、この場合、受注会社は、この種物品の性質上、使用することにより、意匠自体における外観的形態(構成態様)の特徴が特定の会社とかグループの営業表示として機能してくる性質のものであるから、特定の型式のものが同一の地域で重複しないように配慮しながら注文を受けることが認められる。

したがって、この種物品に係る外観の創作は、まず防犯兼用社名灯としての本体が重要で主要な要素となり、これが一般に取付用台板等の取付具と組み合わされてその意匠の成立要件を構成するとみるのが相当である。

本件意匠と引用意匠3をみると、両者は本体の構成態様が酷似する。そして、前記の差異点は、その前後に表示された枠取り及び略「m」の字状の有無であるところ、この種意匠の表示は、普通中央付近に社標あるいはサービスマーク等をそしてその左右に会社名等をそのまま、あるいはその全体又はその一部を枠取状に現すのが普通であり、前記略「m」の字状のものは明らかにローマ字「m」のロゴタイプを枠取りしたものと認められ、単なる文字の類として意匠的価値に乏しく、これらの事実を勘案すると、本件意匠は引用意匠3において枠取りをした程度であって、その実施品の意匠である引用意匠1、2とは勿論、引用意匠3とも類似するものである。

(4)  したがって、本件意匠は、意匠法3条1項3号に該当するが、引用意匠3は本件意匠の登録出願前の出願に係るものであって、本件意匠は最先の登録出願人に係るものではないから、意匠法9条1項により、本件意匠の登録を無効とすべきである。

3  審決の取消事由

審決の理由の要旨(1)は認める。但し、中央の枠取線の内側の略「m」字は、単なる模様であり、ローマ字の「m」と認識されるものではない。同(2)のうち、引用意匠1、2が引用意匠3の実施品であること並びにその納入及び使用状況に係る事実については知らないが、その余は認める。同(3)のうち、審決の一致点及び差異点に関する認定は認める。同(3)<1>のうち、本件意匠と引用意匠3の意匠に係る物品が一致すること及び両者が本体の構成態様において酷似することは認めるが、その余の判断は争う。同(4)は争う。

審決は、本件意匠と引用各意匠との類否の判断を行うに当たり、意匠的価値のない本体の構成を重視する反面、意匠的価値のある本体正面の模様の相違を軽視した結果、両意匠は類似しているとの誤った判断をしたものであるから、違法であり、取消しを免れない。

(1)  本件意匠と引用意匠3との類否判断の誤り(審決の取消事由(1))

審決は、本体の構成を類否の判断において重視するが、引用意匠3の本体は逆舟形状であるとはいえ、上辺の曲線が極めて緩やかであるため、タクシー社名灯としての通常の使用状態、すなわち走行中のタクシーを離れた位置から見る場合においては、その形状は横長の長方形ないし箱状のものとして看者に認識されるため、その形状は全く特徴に乏しく、社名灯としても比較的多く使用されているものである。また、上辺の曲線に注目したとしても、その形状は引用意匠3の出願当時に多く使用されていた警察のパトロールカーや救急車の屋根上の回転灯の形状と略一致しているものであって、公知の形状である。したがって、引用意匠3の本体の形状は極めて意匠的価値の低いものである。

これに対し、本体正面の模様についてみると、本件意匠は、本体正面に略全面にわたり、左右に細長い横長方形、中央にはその略半分の長さの横長方形の図形の模様が現され、さらに、中央の横長方形の図形の中には、縦3本上方に横1本の模様が現され、横1本は縦1本と丸みをもって連結表示されている。審決は、「この種の意匠の表示は、普通中央付近に社標或いはサービスマーク等をそしてその左右に会社名等をそのまま或いはその全体又はその一部を枠取状に現すのが、普通であり」とするが、審決のこの判断がタクシー社名灯全般を指しているのであれば、社名灯には種々の形状があるので社標や会社名の表示位置も形状に応じて異なっており、また、台形状あるいは横長方形の社名灯に限っての指摘であっても、枠取りの有無、サービスマークあるいは会社名の双方を表示するか一方のみを表示するかなど区々であり、審決の前記指摘は相当ではない。

さらに、審決は、「略『m』の字状のものは単なる文字標識の類として意匠的価値に乏し」いとするが、略「m」の模様は、一般人が見た場合、特定の観念を表しているものとは受け取れないから、上記3個の長方形の図形と結合して、意匠的価値ある模様を構成しているものである。

これに対し、引用意匠には、本体正面に模様が全くない形状のみの意匠であるから、形状と模様の結合からなっている本件意匠とは意匠構成上の基本的な差異があり、しかも、形状には特徴が乏しいことからすると、本件意匠における模様の存在は両意匠の相違を決定づけるものであり、類似していないことは明らかである。なお、被告の後記主張のうち、原告が被告主張に係る三ツ矢交通株式会社の代表者である事実は認める。

(2)  本件意匠と引用意匠1、2との類否判断の誤り(審決の取消事由(2))

本件意匠と引用意匠1、2とは、形状はほぼ共通しているが、本体正面の略長方形の図形の形、大きさ比率等が異なっているほか、中央の図形内のマークの有無が異なっている。そして、前述したように、これらの意匠においては、本体正面の模様が意匠を特徴づけるものであるところ、この模様において一見して異なっている以上、両意匠は非類似であることは明らかである。

以上のとおりであるから、本件意匠と引用各意匠とを類似しているとした審決の認定判断は誤っているから、審決は違法であり、取消しを免れない。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因に対する認否

請求の原因1、2は認めるが、同3は争う。

2  反論

原告は、本件意匠及び引用各意匠においては、本体の形状の意匠的価値は乏しく、本体正面の模様によって他と識別されると主張するが、以下のとおり失当である。

(1)  社名灯の製造販売にあっては、本件意匠のように初めから特定のタクシー会社のマークを付したものを一般に売り出すということはあり得ない。このことは、いわば、特定の氏名を現す文字が入った表札はサンプルにはなり得ても、一般的な商品にはなり得ないのと同じである。

したがって、後に模様を施すとしても、社名灯そのものの取引における商品の選択は、模様等を施していない形状の特徴によっているのが普通である。換言すれば、特定のマークとか模様等を施したものをサンプルとして示した場合でも、そのマークとか模様は社名灯そのものの意匠としては認識しないのである。

かかる意味において、本件意匠における本体正面の模様は、社名灯そのものの意匠を特徴づけるものではないし、審決が「略『m』の字状」と認定した本件意匠の部分は、ローマ字の「m」のロゴタイプとしては通常の手法のものである上、原告が代表者となっている三ツ矢交通株式会社が広告等に用いている「MITUYA-G.TAXI」なる文字のロゴタイプの頭文字そのものである。

また、枠取状の模様についてみると、かかる模様は普通に行われているところであり、引用意匠1、2においては本件意匠に極めて近い枠取りを施したものであり、本件意匠の登録出願前から、関東一円でタクシーに使用されている。

(2)  原告は、本件意匠及び引用各意匠の本体の形状は、何ら特徴のない公知の意匠であるから、意匠としての価値が乏しいと主張するが失当である。

原告援用の甲第4号証意匠と引用意匠3とが相違することは、各右側面図をみれば明らかであり、また、甲第5、6号証の意匠は、通常の自動車用表示灯とは構成態様を全く異にするものであるから、これらの意匠をもって、引用意匠3の本体形状が公知であるとはいえない。

したがって、前記の本体形状の意匠的価値が乏しいとする原告の主張は誤っている。

第4  証拠

証拠関係は、書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

1  請求の原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

2  審決の取消事由(1)(本件意匠と引用意匠3との類否)について

本件意匠の構成態様が別紙意匠目録(1)のとおりであり、引用意匠3のそれが同目録(4)のとおりであること、本件意匠の要旨が審決の理由の要点(1)のとおりであり、両意匠の意匠に係る物品が一致すること、引用意匠3のそれが同(2)のとおりであること、並びに本件意匠と引用意匠3の一致点及び差異点が審決の理由の要点(3)記載のとおりであり、両意匠が差異点以外の本体の構成において酷似することは、いずれも当事者間に争いがない。

以上の事実によれば、本件意匠と引用意匠3とは、左右に長く前後に扁平でやや高さのある箱状体において、その左右端から平面(頂面)にかけた外側面(周胴部)が、平面中央を頂点とする緩急斜状面を組み合わせた底の浅い逆転船形状を呈するという本体の構成において酷似し、前後面の3分割枠取線及び中央の枠取線の内側の形状(この中央枠取線の内側の形状がローマ字の「m」なのか、それとも単なる模様として認識されるのかについては、当事者間に争いがある。)の存在並びに取付用台板の四隅の吸着具の形状において、それぞれ差異があるところ、審決は、本件意匠に係る物品においては、上記本体の構成にこそ意匠的価値があるとの立場から、この本体の構成において酷似する両意匠は類似の意匠であるとするのに対し、原告は、上記本体構成はごくありふれた公知の意匠的構成であるから意匠的価値に乏しく、前記の差異点こそ意匠的価値が高いとする立場から、かかる差異点を有する両意匠は非類似であると主張するので、以下、この点について判断する。

(1)  成立に争いのない乙第1号証によれば、社名灯は昭和35年以降、防犯機能上の観点から、タクシーの屋上への装着が法的に義務づけられているものであるが、同時に社名灯の装着はタクシー利用者にとって、当該車両がタクシーであること及び当該タクシーの帰属する事業者名を一見して明らかならしめて利用者の便を図る機能をも有していることから、社名灯の形状は、上記の機能を的確に果たす必要上、社名灯に当該タクシー事業者の名称ないしはこれを端的に表す標識(シンボルマーク)等を単独ないしは併せて表示し、もって、タクシーの走行中においても、その外観から一見して当該車両がタクシーであること及び当該車両の帰属する事業者名の識別が可能となるように配慮されている事実が認められ、他にこれを左右する証拠はない。

ところで、社名灯を購入するタクシー事業者等においても、当然、上記のような社名灯が果たしている機能を念頭に置いた上で、社名灯の意匠の選択を行うものと推認されるところであるから、社名灯のかかる機能を踏まえて、その意匠における要部について、以下、検討してみる。

前述したように、社名灯は利用者が走行中のタクシーを遠方からでも一見して識別することが可能な意匠的特徴を有するものであることが望ましいことからすると、まず、その外観から意匠的特徴が明確に把握されることが必要であり、この意味で、かかる外観形状が重視されることはいうまでもないところである。このことは前掲乙第1号証に掲載された多数の社名灯の外観形状をみても明らかに看取し得るところである。これに対し、社名灯におけるタクシー事業者の名称ないしはこれを端的に表すシンボルマーク等を掲載する部分は当該社名灯を購入したタクシー事業者が自己の名称等を記載する部分であるから、一般的にみるとこの部分については、社名灯の意匠的価値を論ずる余地は極めて乏しいといわざるを得ないのである。もっとも、かかかる部分に意匠を施した場合においては、この意匠部分も、もとより意匠的評価の対象とすべきものであるが、かかる部分は前述したように、タクシー事業者の名称等が記載される部分であることから、かかる記載と明確に区別し得る独立した意匠的意義を有する形状ないし模様等でなければ、事業者の名称等の記載と混同を免れず、これに埋没してしまうために、その意匠的価値は極めて乏しいものといわざるを得ないものである。

(2)  そこで、以上のような観点から、本件意匠と引用意匠3とを対比検討することとする。

本件意匠は、前述したように、左右に長く前後に扁平でやや高さのある箱状体において、その左右端から平面(頂面)にかけた外側面(周胴部)が、平面中央を頂点とする緩急斜状面を組み合わせた底の浅い逆転船形状を呈するという本体の構成を備えるものであるが、前項に述べたところから明らかなように、上記本体構成は、本件意匠を外観において一見して認識せしめるものであるから、意匠の要部を構成するものというべきである。

原告は、上記の本体構成部分の形状は、警察のパトロールカーや救急車の屋根上の回転灯として極めて多く使用されていた形状とほとんど一致しているところの公知の形状であるから極めて意匠的価値が低いと主張する。そこでこの点を検討するに、いずれも成立に争いのない甲第5、6号証には上記主張に沿う意匠の記載が認められるところであるが、パトロールカー等の緊急用車両における回転灯とタクシーの社名灯はそ機能において同一とはいい難い上、前掲乙第1号証によれば、実に多種、多様な社名灯の本体構成部分の形状の中で、本件意匠に係る本体構成部分が一つの特徴ある意匠を形成していることが明らかに認められるところであるから、かかる意匠が警察のパトロールカーや救急車の屋根上の回転灯として極めて多く使用されていた形状と類似していたとしても、その意匠的価値が失われるものでないから、この点に関する原告主張は採用できない。

ところで、本件意匠は前記本体構成において、前後面に配された3分割枠取線及び中央の枠取線の内側に別紙意匠目録(1)記載の模様を施すものであるところ、その意匠的価値について検討するに、まず、中央の枠取線の内側に配された前記の模様についてみると、成立に争いのない乙第4号証(1984年2月1日株式会社朗文堂書館発行、日本タイポグラフィ協会編集タイポグラフィックス・ティー別冊3「LTSP記録集1982-1983」)によれば、前記の模様に酷似した模様が「m」の文字を表すものとして使用されている事実(16頁の最下段の「FORUM」76頁の右最上段の「nimura」、217頁の4段目「m」等)が認められ、この事実からすると、前記の中央の枠取線の内側に配された模様は、一般には「m」の文字を表したものと認識されるものというべきであり、このことは、成立に争いのない乙第5号証によれば、原告が代表者である三ツ矢交通株式会社(この事実は当事者間に争いがない。)においても、上記の模様を三ツ矢交通の頭文字である「m」の文字を表すものとして使用している事実が認められることからも裏付けられるものというべきである。原告は、前記の中央の枠取線の内側に配された模様は、一般人が見た場合、特定の観念を表しているものとは受け取れないと主張するが、かかる主張は、以上述べたところから採用できないというべきである。

そうすると、本件意匠は、本体の前後面に3分割枠取線と中央の枠取線の内側に略「m」の字状の太い線を配した構成を採っていることになるから、これを前提としてその意匠的価値を評価するに、前掲乙第1号証によれば、本体の前後面にタクシー事業者の名称、シンボルマーク等を表示するに当たり、この表示を強調するために、これと一体をなすものとして、様々な形状をした枠取線を入れることは、各種の社名灯においてごく普通に行われており(例えば、7頁2段目の「R-3」、4段目の「C-305」、8頁1段目の「H-2」、同「扇」、9頁3段目の「S-59」等)、また、シンボルマーク等を欧文字等をもって表示することも同様に行われていること(例えば、6頁1段目「A-2」、「A-3」、3段目「C-3」、7頁3段目「8-8」、8頁2段目「T-T」、10頁2段目「ドラムT」、「S-Y」、11頁1段目「Y-703」、3段目「8-SH」等)が認められ、これを左右する証拠はない。

この事実によれば、社名灯において、本体の前後面にタクシー事業者の名称、シンボルマーク等を表示するに当たり枠取線や欧文字等によるシンボルマークを付加することは周知の慣用された手法であるというべきである。そうすると、本件意匠における前記3分割枠取線と中央の枠取線の内側の略「m」の字状の模様は、これらの事業者の名称、シンボルマーク等の表示の一部を構成するものとして認識される可能性が極めて高く、右表示等の中に埋没しているものというべきであるから、独立の意匠的価値を有する模様として認識することは困難というほかはない。

したがって、本件意匠における前記部分の意匠的価値は極めて乏しいといわざるを得ない。

(3)  そうすると、本件意匠と引用意匠3の意匠に係る物品が一致し、両意匠の本体構成部分が酷似することは、いずれも当事者間に争いのないところであるから、両意匠は意匠の要部において類似するというべきである。そして、引用意匠3が本件意匠の先願の出願に当たる事実は当事者間に争いがないから、以上によれば、その余の取消事由について判断するまでもなく、本件意匠は、先願意匠である引用意匠3に類似する意匠であるから、意匠法9条1項により登録が許されるべきものではなく、これと同旨の審決の認定判断に誤りはない。

3  よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

意匠目録(1)

<省略>

(2)

<省略>

(3)

<省略>

(4)

<省略>

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